■『居場所の家』

会社を退職されたお父さんのためのリフォーム。
「この建物には私の居場所がない」
築14年の建売り住宅の間取りには、
お父さんが日がな一日過ごすに相応しい場がなかった。
今回、既存の12帖のリビングと隣り合う6帖の和室をつなげてひと続きの空間とし、
大きな居間であるような、お父さんの書斎であるような、
そんな場をつくった。

壁は既存の石膏ボードをすべてはがし、
新しい下地材は構造補強をかねて、幅30cmの桧集成下地板を横張りにした。
仕上材である3mmの漆喰の目地割れ防止のため、
下地板の継ぎ目には荷作り用の麻紐を張り、塗り込んである。
また天井も漆喰で塗り廻すことで、繭の中のような包み込まれた空間を意図している。

窓は既存のアルミサッシをそのままとし、
上にも下にも可動する猫間障子を新設して、見たい景色だけを切り取れるようにした。
鴨居の高さは既存サッシとは関係なく低めに設定し空間の重心を下げ、
場の安定感を狙っている。

今回のリフォームは、工期がたいへん短かかったこともあり、
空間構成をまるっきり変えてしまうような大掛かりなことはしていないが、
その分、目地・障子・鴨居など、空間バランスの調整には随分と気を使った。
またこういったお化粧直しのリフォームにおいて、自然の素材を使うことは当然のことと考えている。
家具や建具の引手など、
既製品では得られない手触り、愛らしくも控えめな存在感は、
随所に埋め込んだ家具工房ma-GUの手仕事によるところが大きい。

「居場所がない」と言っていたお父さんにとって、
引退後の最後の住まいとして安らげる居場所が作れたのではないかと思っている。
工事が終わって間もない新しいこの居間で、床にゴロ寝するお父さんの姿は、
あたかも昔からそうしていたかのように自然で、印象的な光景だった。


■リフォーム前の様子

・衣装部屋となっていた6帖の和室。  ・和室との間仕切壁は撤去。       ・12帖のリビングダイニング。